さばくのはクリスチャンの仕事?

2020年5月、いのちのことば社は『LGBTと聖書の福音 それは罪か、選択の自由か』を出版した。福音派の文書伝道団体から同性愛を否定的に見ない本が出されたことは驚きをもって迎えられた。編集者のもとには「いのちのことば社はリベラルになったのか?」「世の動きに流されてはいけない」などの声も寄せられた。だが同書の邦訳出版は、アメリカにおける近年のこの問題への福音派内での変化を反映したものだ。

原書 Love Is an Orientationの出版は2009年。著者アンドリュー・マーリン氏は米国の保守的な福音派教会で育ち、同性愛は罪だと疑うことなく思っていた。ところがあるとき、3人の親友が相次ぎ自分はゲイだとカミングアウトしたことから、探求が始まった。

親友たちの体験や思いに耳を傾け、自分が信じてきたこととのギャップに葛藤しながら、「私がずっと拒否してきたコミュニティに属する3人を、なぜ私に親友として与えたのか」と神に問うた。その答えを求めて、彼はゲイコミュニティに「入り浸り」になる。

そこで出会った人々から、教会で阻害されてきた多くの経験を聞いた。彼らと話し合い人生を分かち合い、一緒に聖書を読むようになっていった。その中からイエスを主と信じる人も起こされた。

『LGBTと聖書の福音 それは罪か、選択の自由か』 アンドリュー・マーリン 著、岡谷和作訳、いのちのことば社、四六判

米国で同書は福音派からはリベラルだと批判され、主流派の同性愛容認派からは羊の皮をかぶった差別主義者だと批判された。だが同性愛について社会が二極化する中で保守的な立場からLGBTコミュニティへの橋渡しを試みた書籍は当時珍しく、同書は年間ベストセラーになって多くの賞を受賞し、マーリン氏はアーバナ学生宣教大会で分科会を担当もした。米国の若者たちの間で同性婚に賛成か反対かは日常的な議論だと、訳者の岡谷和作氏(元キリスト者学生会主事)は解説する。

だが著者の結論は同性愛についての是非論ではない。マーリン氏は次のように述べる。「LGBTコミュニティを告発するのはクリスチャンの仕事ではないのです。それは御霊の仕事です。LGBTコミュニティをさばくのはクリスチャンの仕事ではないのです。それは御父の仕事です。クリスチャンの仕事は具体的に目に見えるかたちで、無条件的方法でLGBTコミュニティを愛することなのです。私たちが望む『変化』が起こるかどうかにかかわらず、です! その気づきは私を新しい愛の定義へと導いてくれました。それは他者への無条件的行動に対する具体的で目に見える表現です。私の経験は、LGBTの人々の頭の中で『愛』という言葉は条件付きのものとして捉えられていることを明らかにしてきました。『私はあなたを愛します。もしあなたが…をすれば。または…のように行動すれば。または性的に変わることができれば』という具合にです。『愛してる』と…言い続けることができたとしても、そこに目に見える無条件の行動が伴っていなければ全く意味をなさないのです」

これは右記の大輝さんの言葉「心をオープンにして目の前の人を真剣に愛そうとする姿勢」につながるかもしれない。

LGBTQ② 変化した「罪」の自己認識(1)
LGBTQ② 変化した「罪」の自己認識(2)
LGBTQ② 変化した「罪」の自己認識(3)

「教会とLGBTQ」第3回は9月に性の多様性などについて掲載予定です。このテーマに関するご意見・情報を、上の二次元バーコード(QR)からお寄せください。ご意見を下さった方の中から抽選で3名に『LGBTと聖書の福音』をプレゼントします(当選者の発表は発送をもって代えさせていただきます)。

次回の「フォーカス・オン」は、「教会の持続可能性」をテーマに7月10日号に掲載予定です。

クリスチャン新聞web版掲載記事)